57人が本棚に入れています
本棚に追加
「あらやあだ。そんな怖い声出したりして。ママがそんなだから子供がああなるんじゃなぁい?くすくす」
「なんの話?」
「タカユキから聞いたわよぉ。せっかくお誕生プレゼントあげるって言ってあげたのに、すっごい素っ気なく言ったんですってぇ?イラナイって?」
くっくっくと受話器の向こう側で、女はくぐもった笑い声を上げる。
その煙のような笑い声は、
何キロもの距離の電話線を走りながら毒を溜めていき、
ふわりと私の口元に放たれる。
めらりと炎が上がった。
息が浅くなっていくのが、わかる。
吸い込むのは受話器から漂う、毒。
鼻から口から吐き出される、めらめらとかげろうのような、炎。
どうか、あの女を焼いてほしい。
真黒な炭になるまで焼き尽くしてほしい。
でも、その炎を含ませるための言葉も笑い声も、出てこない。
「ほんとかわい気のない子よねぇ?ママそっくりで。あはは」
ばかばかしい間違いを嘲笑うような、笑い声だった。
「…それを言うためにわざわざ電話してきたんですか?」
「あらまさか。違うわよ?そんな暇ないもの。今のはマクラよ。本題の前の、あれ。ツカミって感じ?ふふふ」
これ以上、聞きたくもないのに、なんで電話を切らなかったんだろう。
女は楽しそうな声で続けた。
「あのね、くすっ」
「何なんですかっ!」
「消えて」
「は?」
「アタシ、今、赤ちゃんいるのよ。タカユキの。でね思ったんだけど、この世にタカユキの子が他にいるとか、あり得ないし。しかも孝之が好き、で、好孝って、何それ?ないでしょ?そんなのって。だから?」
「おい、いい加減よせよ」
受話器の向こう側で、孝之の声がした。
がちゃんと叩きつけて電話を切った。
真っ赤に燃えた鉄を握り締めているみたいだった。
焼け着いた肉がこびりつくように、受話器から手を離すことができなかった。
最初のコメントを投稿しよう!