8:Tears for lady

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「いいけどぉ?確かにおもしろそうだしぃ」  「今日の設定は、バイト先の俺らの友達康平を、ゼミ仲間の俺らの友達紗枝に紹介するってこと」  「おっけー」  紗枝は片手で自分の胸元に寛人を抱き、もう片手でそっとピアスを一つ摘まむ。  気付かれないように体を重ねながら、摘まみ上げたピアスをベッド横に落とした。  負けないし、未夢なんかに。どんな顔するかな?紗枝は、寛人の耳元でくすくすと笑った。  寛人は気付かなかった。  もちろん、紗枝も。  分厚いカーテンの隙間からこの部屋を覗いていたのは太陽だけではない。  くちばしの白い九官鳥は冷ややかな視線でベッドの上の二人を見つめていた。どうしたものかと思案するように首をかしげる。  やがて、何かに呼ばれたように、軽い羽ばたきの音と共に九官鳥は飛び去った。    駅前のロータリーで未夢と康平は人待ちをしていた。  その姿をすぐ近くの木の枝から見下ろす艶めいた潤みのあるつぶらな一対の瞳。  一見すると小型のカラスのようだが、頬から後ろ頭に掛けては黄色い。誰からも気付かれることなく、静かに未夢を見つめている。    「それで?」  「うん。うちの親、共働きで、いつも一人のあたしのためにお誕生日に、くれたの」  「あーそっか。だからその九官鳥を?」  「そう。逃げたきゅうを捕まえようとして2階から落ちちゃって」  「でも、無事でよかったね」  「きゅうのおかげ。病気も早く見つけられて」  「うん。良かった。本当に」  康平は未夢の横顔を見つめて微笑んだ。  急に、未夢が空気の抜けた風船みたいに、しゅんとしたことに気付く。  「どうかした?」  「きゅう……どこにいるかな」  「見つからなかったんだ?」  「うん……きゅうのおしゃべりってホント人間そっくりで」  「へぇ」  「視線感じるときゅうが見てるの。黒くてつやつやして濡れてるみたいな目で、こうやって首傾げてね。どうしたの?って」  未夢はそう言って首をかしげて、康平の顔を見た。
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