8:Tears for lady

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「いつも見ててくれたんだ。おしゃべりして。それで寂しくなかった。きゅうはいつもあたしに元気をくれたの」  「たぶんさ……今頃、誰かに可愛がられてるよ。どこかで、大切にされてる」  「……そうだったらいいな。たくさんおしゃべりしてさ」  「大丈夫だよ」  「……うん」  未夢の頭を撫でそうになる手を、康平はぎゅっと握り締める。  「あ、ごめんね。康平君、こんな話おもしろくなかったよね」  「そんなことないよ。未夢ちゃんの話ならなんだっておもしろいって」  「ありがと。康平君、優しい」  未夢が笑うから康平の心臓はバクっと鳴った。  「あ。あのさ俺、子供の頃にさ、親父に内緒でお袋に兜虫買ってもらったことあってさ」  「うん!」  未夢はきらんと目を輝かせた。  動物好きな女の子は多いが、未夢の場合は守備範囲が広い。    毛の生えたあったかい生き物から冷たくて堅そうな生き物まで、とりあえず命を持つモノへの好奇心は旺盛で、昆虫も大好きだ。  康平はそんな未夢の輝く、好奇心に満ちた顔を見るとわくわくする。    なんだって寛人なんかと付き合ってるんだろう。  「夏祭りで買ってもらったんだ。それで、夏休み終わる頃に森に戻しに行ったんだ。親父と」  「お父さんも優しいんだ」  うわ。目、きらきらだ。  「俺さ……ちゃんと戦わないで、その……メスも、見つけられないで死ぬのって可哀そうな気がして」  交尾という言葉を康平は飲み込んだ。  「うん。そうだよね。生き物の本分だもんね。交尾して子孫を残すのって」  その言葉を未夢はあっさりと言い放ったから康平は少しだけ笑った。  考え過ぎか、俺?  未夢は、不思議そうに康平を見る。  「え?あたしなんか間違ったこと言った?」  「や。……言ってない。言ってないよ。あってる」  「良かったぁ」  「けどさ……」  「うん?」  「今から思えばアレもうダメだったな。木に止まれなくて幹の根元に置いたって感じだったもん」  「そっかぁ……。でも、虫籠の中で一人で死んでくよりもいいよ」  「そ……そうかな?」  「うん。死んで他の虫に食べられて土に帰って、森の皆のためにもなるし」  「ああ。そうだね」  「康平君の、そういう優しいとこってあたしは好き」  「……え?」
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