8:Tears for lady

5/12
前へ
/324ページ
次へ
どきっとしたのは康平だけだ。  未夢は自分の発言の微妙さにまったく気づいていない。  康平は苦笑した。  「あ、あのさ未夢ちゃん?」  未夢が康平に顔を向けようとした時、「わりぃ遅れた!」と寛人が走って来た。  その後ろを紗枝が追う。  「寛人君、遅いよ?」  「ああ。ごめん。わりい。紗枝が遅れた」  「ごめんねぇ。ちょっと友達と会ってたらつい盛り上がっちゃってぇ」  紗枝は顔の前で両手をぱちんと合わせて首をかしげた。ゆらんと右耳でピアスが揺れた。  「あれ?紗枝ちゃん。ピアス一個どうしたの?」  「え?あ……どっかに置いちゃったみたい」  「ええ!だってあれお気にでしょ?いいの?」  「うん。ま、そのうち出てくるよ。未夢、心配しなくていいって」  「あ。康平。これが紗枝。紗枝、こいつが康平な」  寛人に紹介されて、康平はぺこんと頭を下げた。  「康平です」  紗枝は、自慢の魅力たっぷりの笑顔を作る。未夢とは全然違うタイプだ。  「紗枝です。初めまして。よろしくね」  「こいつ、派手に見えるけど、けっこう可愛いとこあるから」  「やあだ。寛人ったら」  「ま、俺から見たら男友達みてーな感じだけど」  「こんなナイスバディなのにぃ?」  誰にも気づかれないようにして康平はちらっと未夢を見た。  どうしたんだろう?  未夢が浮かべた寂しそうな表情がひっかかる。  未夢の視線の先にじゃれる紗枝と寛人がいた。  「あーしっかし腹減ったな」  「運動やり過ぎじゃないの?」  「紗枝よせよ。どこ行く?康平、どっかある?」  「……そうだね。一喜は?」  「ジャンボもいいよねぇ?アタシ、ホルモン焼き食べたいなぁ」  「未夢ちゃんは?どこか行きたいとこある?」  「未夢はどこでもいいよな?」  「あ。うん。あたしはどこでも」  しゃべりながら歩き出した4人を見送ると、九官鳥はふと空を見上げた。 ……どうしたらいい?彼女のために何ができる?……  「あー酔った酔った。ねー康平くぅん」
/324ページ

最初のコメントを投稿しよう!

57人が本棚に入れています
本棚に追加