8:Tears for lady

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紗枝は康平の腕にぶら下がるように歩く。わざとその胸を康平に押し付けて、こっそりと様子を伺う。  康平もかなり酒を飲んだはずなのに足元はしっかりしているし、紗枝の柔らかな胸がぎゅうぎゅう押し付けられても、平静そのものだ。  なによ?アタシの体、気に入らないわけ? ち。おもしろくない。どうせならこのクソつまらない康平も自分のものにしたい。  「二次会やるかぁ!?」  紗枝と康平の後ろを歩く寛人が言った。酔いのせいで寛人の声が大きい。  手を繋ぎ、隣を歩く未夢が、ちらっと寛人を見上げた。  「なに?」  「寛人君、飲み過ぎ?」  「へーき。明日はガッコもバイトもないし」  「俺、明日もシフトはいってるけど」 康平が振り返って言う。  「んなもん、休んじゃえよ」  「そーよそーよ。休んじゃって。アタシ康平君と飲みたいしぃ」  「紗枝ちゃん、大丈夫?」と未夢。  「やだ。未夢、ママみたぁい。康平君に送ってもらえばいいんでしょぉ?今、うち弟来てんの。たぶん女連れ込んでるよぉ。あんま早く帰って締め出し喰らうのも嫌だしぃ」  「でもあ」 「うるせ」  寛人が立ち止まって未夢の口を唇で閉ざした。言葉途中で唐突に黙り込んだ未夢に気づいて、康平と紗枝が振り返る。    未夢と康平の目が一瞬合った。  困ってる?まさか?  寛人と未夢のキスシーンに、紗枝はさらに康平の腕をぎゅうっと抱いて体をよじらせた。  康平は軽く顔をしかめると前を向き、見なかったことにした。 「ったく!未夢の口はうるさいってーの!」 「じゃあ!飲み直し!寛人んとこ!決定!」  紗枝が片腕を振り上げて宣言する。酔っ払った寛人も「おー!」と声を張り上げる。  康平は仕方ないなと小さくため息。ちらりと未夢を振り返る。未夢は居心地悪そうに俯いて歩いていた。  あれは、紗枝ちゃんのだよな……。康平はさっきからベッド横に落ちている青い石のピアスが気になって仕方なかった。  紗枝はことさら康平にしなだれかかり、小首を傾げたり、上目使いで見つめたりしている。  紗枝が左の中指で右の髪を掻きあげて耳に掛けると、あのピアスがゆらゆらと揺れた。  見せつけるように、紗枝はにやりと笑う。康平を見て、その視線をベッド横に落ちているピアスに向ける。  康平もつられて、そのピアスを見た。
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