8:Tears for lady

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「ごめぇん。ありがと」  「未夢ちゃん、紗枝ちゃんについてってあげたら?」と康平。  康平の言葉に未夢は意外そうな声を出した。「え?」 「すごく、酔ってるみたいだ」  「あ。そうだね。うん。そうする。寛人君ちょっと待っててね」  さて、男二人きりだ。    「寛人、紗枝ちゃんとも?」  「はぁ?何、言ってんだ?」  「ベッドのとこに落ちてた」  康平は尻ポケットから拾ったピアスを摘まみだして、寛人の目の高さで軽く振った。  きらっきらっと照明を反射する小さな青い石。ティアドロップ型のサファイア。  「紗枝ちゃんの右耳にぶら下がってるやつと同じだろ?」     「ち。別にいいだろ?別に本気じゃない」  「何考えてんだよ?それで、何で俺に?お前、何がしたいわけ?」  ぱささと軽い羽ばたきがして、康平は振り返った。  窓の手すりにあの九官鳥が止まっていた。  「つか。返せよ。それ」  「お前のじゃないだろ?紗枝ちゃんに返す」  「康平、余計なこと言うなよ」  「誰に?」腹の底が冷えた。思わずこぶしを握る。  ぱささっとまた軽い羽ばたきが聞こえて、今度は風が頬に当たり、とんと康平の肩に九官鳥は止まった。 「僕は未夢ちゃんに笑ってて欲しかった」  言ってから康平はえ?と思った。今のは何だ?何を言ってる? 「君の声を借りるよ」ああそうか。こいつやっぱり「きゅう?」「そう。僕はきゅう」  「はあ?おい康平?なんの冗談だよ?」  だったら貸してあげるよ。 きゅう 「僕は、未夢ちゃんに笑って欲しかった。 だから、いっぱいおしゃべりした。 僕には見えた。 未夢ちゃんの頭の中に何かがあるのが。 ほっとけば死んじゃうかもしれないって思った。 だから僕はカゴ抜け出して逃げた。神様にお願いしに行った。 僕は、未夢ちゃんを励ますために一生懸命言葉を覚えた。 僕がしゃべると未夢ちゃんは笑ってくれた。僕のこと、好きだって言ってくれた。 僕は、未夢ちゃんが大好きだった。 僕には、未夢ちゃんしかいなかった。 僕は、未夢ちゃんに笑ってて欲しかった。」  康平は声を貸して、きゅうの思いを聞く。胸が締め付けられる。  きゅうはなおも言いつのった。
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