8:Tears for lady

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「僕は、 僕の声と引き換えに未夢ちゃんを助けて下さいって神様にお願いした。 神様はお願いを聞いてくれた。 声を失くした僕は、それでも幸せだった。 未夢ちゃんが笑っていたから。」  ピアスをぷらぷらさせながら、康平は涙が溢れてくるのを止められなかった。九官鳥でさえ、こんなにも人を思えるんだ。だったら…  寛人は酔っ払って赤らんでいた顔を青ざめさせて、康平を見ている。  こいつ、頭おかしくなった?気持ちワリィ奴。泣きながら何言ってんだよ?もしかして見た目より酔っ払ってる?  「康平?お前……」 「未夢ちゃんを泣かすな。」  ばさっと飛び立った九官鳥は、そのまま寛人の目を鋭いくちばしで攻撃した。  「うわぁ!」両手で顔を覆う寛人の髪の毛を九官鳥はむしり取った。「痛!いてぇよ!」  ぱさっと康平の肩に戻る。 「未夢ちゃんから離れろ。付きまとうならお前の目を本気で潰す。」低く凄味を利かせて言った。  ああ、そりゃ俺も同感だ。と康平は思った。  康平は、肩に止まるきゅうを見た。きゅうは潤みのある黒い目で康平を見ている。 「後は頼んだよ。僕にしてあげられることは、もうない。」  「きゅう。未夢ちゃんとこに戻っておいで」 「僕はもうしゃべれない。未夢ちゃんを笑顔してあげることはできない。」  「そんなことないよ。君がいるだけできっと未夢ちゃんは幸せだよ?」 「ありがとう康平君。」  寛人は顔を覆う指の隙間から康平を見た。  何が起きてる?康平おかしくなった?いやあの九官鳥は?  ぶるぶる震えてしまう。康平の肩に止まる九官鳥のことも、一人二役でしゃべる康平も恐ろしくて、声も出ない。  「はーもーほんっとに酔っ払っちゃったぁ」と、紗枝の声。「ごめーん。リバースぅ」  康平の肩から九官鳥はびゅっと飛び立ち、康平がぷらぷらさせていたピアスをぱくっとくちばしで摘まみ取った。びっくりした康平がピアスを離すと、それをくわえたまま窓から外に飛び出して行った。  「大丈夫?紗枝ちゃん」と紗枝の後ろから未夢が心配そうに手を伸ばす。  その手を紗枝がぱちんと振り払う。  「だぁいじょーぶぅ!んもぉ未夢はママかってぇの!」  「ん?……あれ?何?どうかしたの?」  未夢は部屋のおかしな雰囲気に気付き、困ったように康平を見た。  「どうしたの?」
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