8:Tears for lady

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「え?ああ。何でもないよ。寛人も飲み過ぎだし。帰ろうか?」  「ええーアタシぃ今帰ってもぉ弟きっと女とHぃ中だとおもーなぁ」  未夢は寛人を見た。青ざめている。目の上から出血している。  「寛人君、その怪我どうしたの?」  駆けよろうとした未夢に「来るな!」寛人は叫んだ。  「どうかした?」未夢はきょとんとした。  「あ……あ。何でもない。未夢、わりぃけど、帰って」  「え?」  「あの……ちょっと、やっぱ俺、飲み過ぎたなって」  「……うん。わかった」  「えええーアタシはぁ?」  「……紗枝は、もちょっとここにいろ」  「いいのぉ?未夢はぁ?」  「あ、いいよいいよ。紗枝ちゃんこんなに酔ってんのに、弟くんに追い出されたら大変だし」  「ありがとー?じゃあ酔い覚まして帰るぅ」  くるりと背中を向けた未夢を見て、紗枝がにやにや笑ったのを康平は見ていた。  康平は未夢の隣を歩きながら、未夢を見下ろして表情を探ろうとした。けど、頭から額、鼻先のラインに特別な表情は浮かばない。  「あ、あのさ未夢ちゃん?」  「うん?」  「……大丈夫?」言ってから、何が大丈夫だよ?と反問する。  「……うん。大丈夫だよ?」  「そっか」  無言のまま。    暗い路地を曲がる。  街灯の明かりは青くて、その辺を明るく照らしているようには、見えない。  軽い羽ばたきが聞こえたような気がして、康平は空を見上げた。    月はぽかりと浮び、さらさらと月光を振りまいている。  「あのさ、康平君?」  「ん?何?」優しい声が出る。  「……んーん。やっぱりいいや」  「そっか……」  大通りに出た。  人通りも多くて、コンビニや飲食店、本屋の照明で賑やかだ。  律義に等間隔で立つ街灯は、白色の光でやたらにあたりを明るくしている。  コンビニ横の道を入る。  もうすぐ、未夢の家だ。  また街灯が青色になった。防犯灯らしい。  青は人の心を落ち着かせるとかって理屈らしいけど、青い薄暗がりってなんか別のものを引き寄せそうな気がするな。  康平はそう思いながら、また空を見上げた。きゅうはどこに行ったんだろう?  「あたし、知ってるんだ」
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