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「アタシは幼稚園の時に初恋。同じクラスのミクちゃんでお医者さんごっこして、親に怒られてさ。張り倒されたんだよね」
チヒロは、くすくすと思い出し笑いで続ける。
「地方の水産高校に行くってことで中学出てすぐ家も出ちゃったし。親はアタシのこと認められないって。でも、しょうがないよ」
少しもブレのない言葉。
「チヒロは、強いよね」
「アタシは清流にしか棲めないオヤニラミだからね。生きられる環境が限られてるの」
「オヤニラミ?」
「魚よ。純淡水魚」
「ふぅん。そんな魚いるんだ」
「ふふん。ジン、まだまだ勉強不足ね」
「どうせ」
「ともかくアタシは、女じゃないと愛せない。女の体で男の心ってのとはまた違う」
見透かすような目で私を見る。
確かに、そんな想像したこともあった。
もしかしたら自分はこの体に男の心を持っていて、それでユリを思っているのかもしれないって。けど……。その想像にはいつもあり得ない苦痛と苛立ちがあった。
自分にこれ以上の嘘を強要するなと、千尋の谷底にいるソレが怒っていたんだろう。
「アタシ、今まで男を意識したことないし。好きになるのは全部女だったし。自分では、不思議だとか変だとかって思ったことなかったんだけどね」
理解できないという周りの方がオカシイと思うけど、理解してもらおうとも思わないな……肩をすくめてチヒロは言った。
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