9:miracle of the night of midwinter

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ちょうどテレビでクリスマスイルミネーションの特集番組を見ている時に「オレ、おっきなクリスマスツリーがみたい!」とナルが言った。 そうだよね。うち狭いし。 クリスマスツリーってカウンターキッチンの上にちょこんと乗っかる、超コンパクトサイズだし。 じゃ可愛いナルにおっきなクリスマスツリーを見せてあげよう! ってことで、ここまで来たわけ。 なんで地元じゃなくてわざわざここまで出向いたかと言うと、亮介の実家がこっちだと聞いていたから。 え? お前は誰で亮介は誰かって? 私は都倉月子。年長さんの、息子のナルと暮らすワーキングシングルマザー。30代女子。 亮介は、荒瀬亮介。享年26歳。ナルの父親。 そして ここは亮介の実家があったはずの古き都。 とは言え、どんな事情だか亮介が疎遠にしていた両親は、亮介の死後相次いで他界して、その親戚もどこにいるのやら……。 知ってるのは、お墓の場所だけってどうなのよ。 でも、生きていく上で支障ないし、ま、それでいいじゃない? とにかく、今日、そのクリスマスツリーは点灯式なんだって。 職場の人と被らずに取れた、ひと足早い冬期連休。 ナルも保育園を休ませて、電車を乗り継ぎ、ごちゃごちゃした人ごみの中、ここまで来た。 色で言えば、赤と緑と金がそこらじゅうに溢れてる。 リボンや星やトナカイや林檎やベルがあちこちに取り付けられてて、ぴかりんきらりん光り輝いてて、 足元だって、まるで流星の中を歩いてくみたいに、きらっきらっしてるの。 これ、夜になったらもっときれいだろうなぁ。 そんなクリスマスの飾り付けにウキウキしてるナルは、終始上機嫌だった。 けど、ぶっちゃけ遠かった。 けど、来て良かった。 たぶん。 理由はわからないけど、そんな気がしている。 5、4、3、2、1、 ゼロ!! にぎやかなカウントダウンで、きらきらりんと輝き出したクリスマスツリーに、歓声が上がり拍手が響いた。 その瞬間、ナルは息を飲んだ。 私は、この一瞬の彼を見逃すまいと、眩いクリスマスツリーそっちのけで、ナルの顔を見下ろしていた。 まん丸に見開いた瞳。 「うっわ」と囁くような声を発してから、閉じるのを忘れたようにぽかんと開いた口。 似てる。 会ったこともなく教わったわけもないのに、この感情の発露。 亮介にそっくり。 胸の奥底が、懐かしさで焦げ付く。
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