9:miracle of the night of midwinter

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その表情をもっと間近に見たくてしゃがみ込む私に、まだまだ舌足らずのナルが「キレイだね」と言う。 それが私の耳には、「ちれいだね」と聞こえる。 ナルのプライドを傷つけないように、こみ上げる笑いを唇で堪えて、私は彼の瞳に宿るクリスマスツリーの輝きを、見ていた。 「ね?」とナルが私に同意を求めたから「本当に綺麗ね」と私は答えた。 「ママ、オレじゃなくてあっち見てよ。クリスマスツリーちれいだから!」 ナルは、ついこの前まで「ボク」って言ってたくせに、保育園に上がって、いつの間にか「オレ」って言うようになった。 その時もあんまりにも可愛くて、可愛くて可愛くて、笑いそうになった。 けど、我慢した。 自分もそうであるように、皆、それぞれにプライドがあるのだ。 上から目線であれこれ反応されたら凹んでしまう。 「ほら、ママ?」 ナルに促されて立ち上がる。 小さな右手をぎゅっと握って改めて煌めくクリスマスツリーを見上げる。 思わずため息が出た。なんだか胸の奥から神々しいパワーが溢れてくるような気がする。 奇跡でも起きそうな、そんな感じ? って……奇跡って何よ……もう。 や。でも、パワースポットに来たら、こんな感じするかも。 行ったことないけどね。 そして、ぐるりとあたりを見回す。 こんな時、私は、 皆はどんな顔をしているんだろうって思う。 内側から照らされてるみたいに、満たされたような、惚けたような表情、笑顔のまま、時間が止まったような表情。 皆、違う顔なのに、浮かぶ表情は、どこか似ている。 それが表しているのは、なんだろう。 ともかく、何かを共有している。 それって、感動かな? 小さなため息が漏れる。 ふわっと白い息が上がりすぐ空気に溶けていった。 「っ!?」
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