9:miracle of the night of midwinter

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ポケットの中でぶぶぶっと携帯が震えた。 着信を見る。 『CALLING 樺内拓斗 080×××~』 樺内拓斗(かばうちたくと)……。 拓斗ね。……拓斗か。 亮介の幼馴染。 学校は重なったことないのに、なぜか亮介を慕い、追いかけて大学、就職とくっついてきた、自称、弟。 てか弟子?のくせに、亮介が亡くなってナルが生まれて、そんな事情全部知ってるくせに、私に何度となくいらぬ告白をしてくる、奴。 無視無視。 また、ゆるりと首をめぐらす。 こうやってきょろきょろするから、私はナルにもよく「ヨソミしちゃだめだよ」って叱られる。 たぶん、ナルは保育園で先生がそうやって子供達を注意しているのを、見て聞いて覚えたんだと思うけど……。 ……そう言えば、亮介にも、言われたっけ。 「もしも子供が産まれたら男だったらナル。女だったらルナ。な?いい名前だろ?」 あの日、あの時、亮介はそう言って、私を見た。 「え?……あ、うん」 「なんだよ。ぼんやりして。今のいちおプロポーズなんだけど?」 「う?……あ?な、何?」 亮介は、しゃーないなぁって顔で笑うときゅっと真顔になった。 「月子。俺と結婚してください」 七年前の雪の降るクリスマスイブの夜だった。 女の子の夢を、絵に描いたような瞬間。 私は世界のど真ん中にいて、何もかもを手に入れたような、満たされて誇らしい気分だった。 思わずあたりを見回すと、彼は私の肩に手を置いて、顔を覗き込んだ。 亮介は、幸せそうな、小さな子供を甘やかすような笑みを浮かべていた。 「余所見しない。ちゃんと俺だけ見て」 「うん」 「うん?」 「だから、うん。する!結婚!」 そのくせ、亮介は私を置いて遠くに行ってしまった。
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