9:miracle of the night of midwinter

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ぶぶぶっとまた携帯が震えて、同時に「かばっち!」とナルが叫んだ。 え?かばっち?カバウチタクトがここに来たって? ぱっと手を離して駆けて出すナルの後ろ姿を、亮介はにこやかに見送ると「さよなら月子。ありがとう。幸せにね」と言って、 消えた。 本当にあっという間の出来事だった。 ……ウソ。何? 今のって……幽霊?え? オカルト?ミラクル? どっち? いや、マボロシかな? って、今の……奇跡? 真正面で、腕の中に飛び込んだナルを抱き止めた拓斗と目があった。 拓斗は信じられないモノを見たような、驚きに満ちた瞳で私の右側の空間を凝視してたけど、すぐにはっとして、ナルの手を引き、でかい図体のくせにかなり素早く私のところに駆け寄ってきた。 突進する河馬か? 「見た見たっ!?今のって亮介さんだよなっ?俺?あれ?寝不足?え?何何何っ?嘘っ?」 ああもう。 うるさい。 余韻もへったくれもない。 まったく亮介と真反対の奴だ。 せっかくの奇跡を、 もっと静かに、 もっとゆっくりと、 味わっていたかったのに。 亮介には、ナルを、ちゃんと紹介してあげたかった。 なのに、 なんでこんな時に、こんなところに拓斗は来たんだろ? まったく台無しだ。 ぐーで胸元を殴ってやったら拓斗は「う」と言って、黙った。 さっきの亮介のことを、拓斗と共有する気はまったくない。 「で?何をしに来たわけ?仕事、忙しいはずだけど?」 「うっわ。刺々しいな。けど、月子さんじゃないもん。なー?ナル?俺はナルに誘われたから来たんだもんなぁ?おっきなクリスマスツリーを一緒に見ようって」 「え?それでなんでここが?」 「俺を誰だと思ってるわけ?」 「……いいや。メンドクサイから」 「わ。投げやり」 私の気持ちを知ってか知らずか、拓斗は亮介のことにそれ以上は触れなかった。 というか、お子ちゃま同士で同盟組んだわけね?やれやれ。
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