9:miracle of the night of midwinter

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「だから!私はナルをちゃんと!」 「育てたいんでしょ?わかってますって。けど、ナルだって10年もしたら、あの若者みたく、かーちゃん捨てて他の女に走るわけっすよ?」 「は?何、その捨てるって言葉?やな感じ」 「や。だってそうでしょ?ずーっとかーちゃんと二人だけで人生終わらせるよな男になって欲しいわけ?ナルに?」 「それは」 「ね?でしょ?しかも俺ならナルと肉弾戦で遊んでやれるわけ。月子さんがしてやれないことだって、俺はしてやれる」 拓斗はそう言って、肩車したナルをひょいと持ち上げると 「行くぞ!ナル!」 「うん!行け!」 「ナル砲発射!」 拓斗は、言葉と共にぽんとナルを放りあげる。 ひらりひらりと舞い降る雪の中、ひゅんと速いスピードで落ちてきたナルをすとんと腕の中に、拓斗はキャッチした。 ナルは目をぎらぎらさせ「きゃはははっ!」大口開けて笑っている。 「ね?」ナルを、まるでトロフィーみたいに掲げて拓斗は私を見た。 「……」ずるい。それはずる過ぎる。 「でも、だったら……」 「だったら?」 「……」 しまった。 だったら、の後の言葉はノープランだった。 ナルは笑い止むと不思議そうな顔で私と拓斗を見ている。 何を言わんとしての「だったら」なのか自分でもわかってないのに、言葉は勝手に紡がれて私の口から出ていった。 白い息と一緒に大気に溶ける。 「もしも私とナルの、どっちか一人しか助けられないような時に、どうする?私だったら、何も迷わないでナルを助けるよ。拓斗を見殺しにしたって、私はナルを助けるよ」 拓斗は鼻先から小さく白い息をふっと吐き出した。 笑っている。
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