9:miracle of the night of midwinter

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今日、ここで、私は亮介に再会した。 それは、きっと奇跡、だよね? もしかして、他にも、何か奇跡的な経験をした人が、いたのかな? ああ。 まあ不本意ながら拓斗にも、それは起きたようだけど。 え?ここ 本当にパワースポットだったりする? って…… 自分の考えに、苦笑いが浮かんだ。 それよりも、よく考えてみれば……、 ねぇ亮介。 もっともっと気のきいたこと 言ってくれても良かったんじゃない? だって、 私、ずっと頑張ってきたんだよ。 なのに、 ありがとう。さようなら。幸せに。 だなんて。 そんなの……ありふれた言葉じゃない? 他に言うことなかったの? 私が言って欲しかった言葉は…… 『愛してる。ずっと』 後ろで声がした。 慌てて振り向いたけど、誰もいなかった。 きょろきょろとあたりを見回す。 『シワシワになってボケても長生きしろよな』 「はぁっ!?」 あ。大声が。つい。 やだ。 道行く人の視線が 痛い。 拓斗がくるっと、振り返った。 怪訝そうな顔してる。 「ママ!ヨソミしちゃだめだよ!迷子になるよ!」 ナルが拓斗の肩の上で叫ぶ。 「はぁい!今行くね!」 ナルに答えて小走りに追い付くと、拓斗がすっと私の手を掴んだ。 「まあ余所見して迷子になっても俺が絶対に探してやるから、心配いらないけどね」 「そうだよね」 「……え?」 拓斗がお笑い芸人みたいに、見事な二度見をしたけど、敢えての無視無視。 路上に落ち影は、寄り添いひとかたまりになって、私達に着き従っている。 と、拓斗の影が小さく力強くガッツポーズを決めたから、私はこみ上げる笑いを唇で堪えた。 ひゅるんと吹き抜けた風の中に、くすりと亮介の笑い声が聞こえたような気がした。 ~完~
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