10:My Boss Your Hero

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この笑顔。 ほんとならあたしのだったかもしれない。 2年前の、あの流産がなければ……。 「……救世主誕生、救世主の母より……かぁ」 呟いてしばらく画面を見つめる。嫉妬心すら湧かなかった。 同い年なのにずいぶんと違う。女の道ばりばりに闊歩している由紀子と最近は生理不順で中身はおっさん化し始めてるあたし。 そりゃあ哲郎が由紀子を選んだのは正解だよね。 由紀子は悪くない。あたしが流産したことも、そもそも哲郎と付き合ってたことも知らない。 だいたい、哲郎だってあの時、妊娠したって言ったら困った顔してた。流産したって言ったら口先では心配してる風だったけど、明らかにホッとしてたっけ。 転勤希望だしてとっとと関西に行った。 でも、そんな哲郎でも……。 いや、いいんだ。 あたしが仕事を選んだんだ。選ばれなかったわけじゃない。 とりあえず絵文字がっつりハイテンションデコメを返信してやった。 新しい命の誕生は祝福されるべきことだ。 これまた無意識に自分の腹に手を当てる。苦笑い。 気を取り直して、煙草に火をつけようとした。 瞬間に甘い甘い匂いがぷんとして、一気に気分が落ちる。目を上げる気にもなれない。またか。三崎百合子。社長の娘。 鳴り物入りのコネ入社。どんなミスをしても誰も何も言わない。 書類の受け渡し以外には、まったく使い物にならないのに口だけはいっちょ前以上で、なんでかあたしにやけに好戦的だ。 「わぁ晴海係長だったんですねぇ。大股開きで男らしく座ってらっしゃるから男の方かと思っちゃいましたよぉ?」 「三崎さん、お疲れさん」 仕事のできないあんたに言われたくないけどね。と思いつつの社交辞令。 「本当に疲れちゃいますよねぇ?係長は小袖課長に怒られちゃって大変でしたねぇ」
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