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「ま……」思わず正也と言いかけて息を飲んだ時、「棚橋さぁん」と、三崎の声。
きっとあれは、飛び切り可愛い顔だ。声もきゅんと高くなって語尾にハートマークが見えた。
ああ、そういうこと?
三崎は、正也を?
三崎はくるん、と、かかとを支点にまわって正也に体を向ける。
「お疲れ様です。三崎さん」
正也はあたしから取り上げた煙草をポケットに入れ、替わりに出したコインを自動販売機の投入口に落とす。
三崎は下から覗きこむようにして「休憩ですかぁ?いーなー私もお財布持ってくればよかったなぁ。喉乾いちゃったなぁ」と甘えて露骨にねだっている。
「ん?……ああ、好きなものどうぞ?」
正也が極上の微笑みで言った。
「ええ?いーんですかぁ?なんか悪いなぁ。でも、甘えちゃおうかなぁ」
って、なんでそこで、満面のドヤ顔であたしの見るわけ?
三崎はバレリーナみたいに指先を優雅にのばして「んーどれにしようかなぁ……どれがいいと思いますぅ?棚橋さぁん」
ばかばかしくて正視できない。
「どれでもどうぞ」優しく柔らかく、それでいて若干の呆れ声だ。「あなたがどれを選んでも私には関係ないですから」
「えぇーなんでそんなイジワルなこと言うんですかぁ?もー冷たいなぁ」
「……はやく選んで買って仕事に戻って下さい。あなたのフォローで自分の仕事が止まっている人がいるんですよ?ここは仕事をする場所ですから」
「はぁい。じゃあイチゴオレにしようかなぁ」
イチゴオレは可愛いとかって理由で決めたに違いない。
三崎はイチゴオレのボタンを押すと「あ。そうだ!棚橋さんとこにはメール来ました?由紀子さんからの」と言った。
「来ましたよ」まったく素っ気ない。
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