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「係長のところにも来たんですってぇ」
三崎は、人差し指をピンとさせ顎に当てて「でも34歳のママってこれから大変ですよねぇ?だって子供10歳でママが44歳ですよ?」
でしょ?と同意を求めるように三崎は、ぴょこんと首をかしげる。
正也はにっこりと笑う。まるで同意したような正也の笑顔に三崎もにこにこしていた。
「三崎さん。これは個人的な意見ですが……由紀子さんなら社会経験がある分、思慮深い母親になると思います。私も一緒に仕事したことがあるのでわかります。そのへんのなんの苦労も知らない小娘を親に持つよりも、生まれた子にしてみたら、はるかに幸せじゃないかな?」
正也の言葉に、三崎の顔が歪んだ。黙り込んで自動販売機をじっと睨みつけながらイチゴオレが出来上がるのを待つ。
やがて、できあがったイチゴオレを素早く取り出し、あたしを睨みつけて事務所に戻って行った。
いや。なんであたし?
思わず正也の腹のあたりに裏拳を入れる。ぱしっと正也はそれを受け止めてくすりと笑った。
「彼女、今日もずっとあの調子?」
「そう」
三崎が完全に行ってしまってから「……林さんからのメールは」と正也は声を潜めて言う。
心配そうな顔であたしを見ている。
だから、あたしは笑顔を見せなくちゃと思う。
大丈夫だから。何とも思ってないから。過ぎたことにいつまでもこだわったりしてないからって。
「ああ。来た来た……はぁ。もーさ、救世主誕生だって。自分のこと救世主の母だって。ウルトラの母かっての。ったく親ばか炸裂だよね」笑って見せる。
「気にしなくていいから」
「してないし」
「課長の呼び出しだって」
「ぜんぜん気にしてない」
「……」
正也は隣にすとんと座ると、あたしが飲みかけてたコーヒーを取り上げてごくりと飲んだ。
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