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「あのさ、涼香さん?」
「なに?」
「俺には何でも言っていいんだよ?どんなことでもさ」
「ありがと。大丈夫だって。課長のおばかっぷりも、由紀子のことも、三崎のことも大したことない」
「……」
正也は、何も言わずに少しの間、あたしの顔をじっと見ていた。
ふぅん。と、正也の、たぶん心からのため息みたいな返事が小さく聞こえて、何だかわからないけど、あたしは少し泣きそうになった。
「……そっか。だよね。涼香さんは強いからね」
「うん。だいじょぶ」
それでも口角をきゅっと上げて笑顔を見せる。
「もっと頼ってくれていいんだけどな?」
「何言ってんのよ?年下のくせに!あたしはタフだから大丈夫なの!自分の心配しなさいよね?」
正也は、ふっと微笑むとあたしの頭をくしゃっと撫でた。ボっとほっぺが燃えたような気がした。
「……で、今日は?」
「うん。今日は」婦人科に行くって話はすっ飛ばす。「ちょっと用事があって帰れるのは8時頃かな」
「いつもより早いじゃん」
「そうそう!今日くらい早く帰って寛がなくちゃね」
「そうだね」
あたしはぽんぽんと正也の肩を叩いて、立ち上がる。その手を正也が引く。
ばくっと心臓が鳴った。「な、何?」
正也が、もう片方の手をすっと伸ばして「煙草」と怒ったような顔で言ったから、なんとなく気圧されて、ポケットから煙草の箱を出して正也に差し出す。
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