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二杯目のハイボールをぐっと飲み干して三杯目を作る。
どうしよう。どうしたらいい?
つい習い癖で無意識にまた笑顔を作った。
泣ける場所が必要だって?
それがあったからって何が変わるって言うの?
泣いて状況が変わるなんてあり得ない。
父は、あの日、泣きじゃくるあたしを置いて行った。
申し訳なさそうでもなく、泣いてるあたしに見向きもしないで、淡々とした顔で荷物も持たずに。
泣いても、変わらない。
だから笑って、見せる。
子供の頃に身につけた生きるための知恵。
それ以外にどうすればいいのかわからないっていうのが正直なところ。そんなことわかってるけど、どうしようもない。
三杯目のハイボールを飲みながら煙草が欲しいなって思った。
ん?そう言えば、あたし、今、お酒って飲んでいいの?
煙草って大丈夫だっけ?あれ?ネットで調べてみる?
なんて思った瞬間に、ぴんぽんとインタフォンの音がした。
モニターを見ると「涼香さん?いるでしょ?」正也だ。
スーツ姿。退社後、まんまここに来た?
少し慌ててドアに向かう。その間もリビングのモニターからぴんぽんぴんぽんと音が聞こえて「涼香さん?」と正也の声がする。
ドアの真正面に立つ。向こうにいる正也の顔を思い浮かべる。ぴしゃんと両頬を叩く。あたし、しっかりしなさいよ。
笑って。口角を思い切りあげて。ほら、笑って。
ドアノブに手をかけて、かちゃんかちゃんとダブルロックを解除する。外向きに開くドアを押そうとした瞬間、がばっとドアが引っ張られた。同時に「涼香さん!」正也の声。
予想外に持ってかれた体が正也の腕の中にすぽんと収まった。
「あ、あのごめん」なんでかわからないけどつい謝る。
「どういたしまして?」正也は嬉しそうに笑っている。
「あの、どうしたの?」
「ん?何が?彼女のとこ来るのに理由いるの?」
「……あ、いや。あの約束、してなかったし」
「約束なくたって、会いたければ来るでしょ?普通に」
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