10:My Boss Your Hero

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「……」 何も言えなかった。 お腹に手を当てる。 ここに育つのどうかわからない命がある。だけど実感がない。 なんて答えればいい? どんな言葉がいいのかわからない。 もしも、必要って言ったら正也はどうするの? もしかして、いらないって言った方が正也のためじゃないのかな? そしたら三崎と……。 あたしが黙ったままだったからか、正也は業を煮やしたように口を開いた。 「あのさ、俺、男だからよくわかんないけど、これって普通に一人で大丈夫な状態なの?」 「え……と、あの」 「しかも、前に流産しててさ。……何かあった時、どうするんだよ?」 「……どうにでも、なるよ」 「どうにでもって……」 ほら。笑わなくちゃ。大丈夫だから、心配いらないって、ちゃんと笑って、みせなくちゃ。 「あの時だって、正也を巻き込んだみたいで悪かったけど」 「なんで笑うの?」 正也があたしの両肩に手を置いて顔を覗き込むから、思わず目を逸らした。 そしたら正也はあたしの目を逃がさない。また真ん前から見る。 目が、逸らせなくなった。 でも、ほら。笑顔、笑顔。 あたしは、大丈夫だから。 ね? 正也はあったかい目で微笑んで「ったくしょうがないなぁ」と小さな声で言う。 「俺は、林さんみたいな男じゃないし涼香さんのお父さんみたいな男でもないよ?」 そう言って、あたしの体をぎゅうっと抱いた。 「俺には無理に笑ってみせなくていいから」 「無理してないし」 「一生なんて言わないけど、明日くらいまでは世界で一番、涼香さんが好きだから」 ちょっと予想外の言葉に頭の回転が止まった。正也の体を静かに押し戻す。 「……明日、まで?」 うわ。何?なんか微妙に刺々しい声、出たよ? くすっと正也が笑って、吐息があたしをくすぐった。 「今、俺が一生、気持ちは変わらないって言ったら、そんなわけないって言うだろ?だから明日までは誓う。で、明日になったらまた誓う。そうやって、ちょっとずつ積み重ねて行こう?」
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