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あったかい。優しい笑顔。
ああ、あたしはこんな笑顔を見ていたかった。
ぽろっと涙が落ちた時、正也はあたしの頭を、そおっと胸に抱いた。
「俺、何も見てないからね」
「……」
胸の奥が熱い。鼻の奥も目の奥も、体全部が熱い。
息が苦しい。
正也は泣きじゃくるあたしを抱いて、小さな子をなだめるように優しく背中を叩いている。
「仕事ではさ、涼香さんは俺のボスだけど……」
「うん」
「けど、こんな時はさ」
「……」
「もっと、頼ってよ。大丈夫、ちゃんと守るよ」
ねぇ?
今、全世界の時間って止まってる?
や。もしかして世界中にあたしと正也しかいないとか?
だって、なんだって正也はこんなあたしに、こんなに優しく熱く力強く、こんなことを言う?
いつもと違う。仕事で聞く声でもない。言葉にしっかり芯がある。
嬉しい。
なのに……素直に聞けない。
「……と、年下の、くせに、な、生意気、言って」
「ふふふ。はいはい。泣き虫のくせに強がりさん」
なんだか、そんな風に言われている自分が、小さくて可愛くてすごく大切にされている女の子になったような気がして、あたしはぎゅっと正也を抱き締めた。
「どうしてもって、言う、なら、頼りに、しないことも、ない、から」
「うん」
「これから、大変、かも、しれないよ?あたし、こんな、だし」
「わかってる」
「もし、つぶれたら、ぶっとばす」
正也はあたしのことをすごくすごく強く抱いて、あははって笑うと「任せろ」って言った。
このまま、正也はあたしを抱いて飛び立つこともできそうだ。
目的地に向かってギューンってまっすぐに!
やっぱり足の裏からジェット噴射かな?
そんな姿を想像したら、少し笑えて、なぜかまた涙が溢れた。
「大丈夫だから」
あたしは正也の腕の中で泣きながら、何一つ状況が変わったわけじゃないのに、正也がそう言うならきっと大丈夫って、心の底からそう信じた。
~完~
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