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「あらま大胆」
「ユリが、てっちゃんのことで心配して悩んで、少しだけ泣いて、そんなユリ見てたら……つい」
「どこに?まさか?んもうっジン!」
チヒロは肩をいからせてよじよじと、かなりコミカルにヤキモチを焼いて見せている。
わざと……だね。たぶん。
「頭……っていうか、髪の毛?」
「ふぅん」
そう言って自分の頭を指差す。「アタシにも」
何言ってんだか、今すっごいまじめに話してんのに、と思うのに、チヒロは上目遣いで「じゃなきゃここで唇にキスしちゃうよ?」
脅かされたフリでチヒロの髪に素早く唇を落とす。
くすくすっと笑ってすっと気まじめな顔で私を見た。
「わかってるよ?」
「……何が?」
表情を消して、私をじっと見つめている。
瞳の奥が揺れる。揺らぐ。
「ジンがあの子をどれだけ大切に思ってるか」
チヒロと一緒にいるのは、海に潜るのと似ている。
「本当はどれだけあの子に触れたかったか」
小さな細胞の一つ一つが、揺らぐ波の干渉を受ける。
「ジンの口からあの子の話が出るたびに、胸が痛かった」
深く奥まで。
「自分のことも、自分の気持ちも、知らんふりで見ないようにして」
それは、互いに当り合って大きく離れまた強く寄り添う。
「その上、アタシの気持ちなんか全然眼中になくて」
繰り返すうち、やがては、同じリズムを刻めるのかもしれない。
「なのに、夕べ……受け入れた。すごく素直に……。どうしてかなって思った」
チヒロはグラスに残った液体を一息に飲み干した。
「……危ないなぁって」
「何が?」
「アタシも行く」
「え?」
「沖縄」
「何で?仕事は?」
「ジンの方が大事」
チヒロの顔をまともに見れない。
見たら、きっと全部全部、暴(あば)かれてしまう。何をしようとしているのか……。
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