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曇り空の下、桜がちらりと散る。
風などなかったのに。
その小さな一片の花びらから生まれた微(かす)かな風が、空間に何かを凝(こ)らせていった。
「来るかな?」
「約束は守るやつだったろ?」
春樹は、不安そうに桜を見上げる加奈子を、見つめた。
「行くの?」
「約束したからね」
エンジンをスタートさせた銀治の腕に沙耶が触れた。
冷たい指先から心の揺れを感じて銀治は沙耶を見つめる。
沙耶はその手を引っ込めて「怒って、ないかな…」ぽつんと漏らした。
俯いてしまったその頭に銀治は優しく手を置いた。
するすると二度撫でる。
「話そう。…ちゃんと」
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