11:Spring snow

2/14
前へ
/324ページ
次へ
曇り空の下、桜がちらりと散る。  風などなかったのに。  その小さな一片の花びらから生まれた微(かす)かな風が、空間に何かを凝(こ)らせていった。  「来るかな?」  「約束は守るやつだったろ?」  春樹は、不安そうに桜を見上げる加奈子を、見つめた。  「行くの?」  「約束したからね」  エンジンをスタートさせた銀治の腕に沙耶が触れた。  冷たい指先から心の揺れを感じて銀治は沙耶を見つめる。 沙耶はその手を引っ込めて「怒って、ないかな…」ぽつんと漏らした。  俯いてしまったその頭に銀治は優しく手を置いた。 するすると二度撫でる。    「話そう。…ちゃんと」
/324ページ

最初のコメントを投稿しよう!

57人が本棚に入れています
本棚に追加