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銀治は、前を向きアクセルを踏み込みながらそっと沙耶の手を握った。
指先どころが手の平全体が冷たい。
「…いいのかな?本当に」
「心配するな」
「私達ってどうして…」
加奈子は少しだけ背伸びをして、桜の細い枝先についたまだ開き切らないつぼみに手を伸ばし、ぷちりとそれを折り取った。
「加奈子、花は散るんだよ?」
加奈子がつぼみを春樹の鼻先に近付ける。
淡い淡い香りが立ってる。
春樹は深く息を吸い込む。
「開けばもっと香りは強くなったのかな?」
「つらいのか?」
「…よくわからない。今日、この日までずっと夢の中にいたみたいで」
春樹は空を見上げた。
静かに空気が締まっていく様子が見える。
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