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大気に含まれた水分も命あるものが立てるささやかな音も空に吸い上げられていく。
灰色の曇り空に、全て。
ほの暗いのに、ぼんやり発光しているような雲の中では吸い上げられた水分と命から生まれた音が冷気に冷やされ互いに寄り添っているだろう。
やがて始めのひとひらは、あの空から解放される。
「きっと、今日…だよな?」
「一緒に…見たかった…雪と桜…」
あの日、銀治が病室に駆けつけると加奈子はベッドの上でうわごとのように言っていた。
「行こう。加奈子、治ったら、皆で一緒に」
春樹はすでにこの世になく、その体があるのも病室ではなかったが、それを銀治は加奈子に伝えなかった。
落胆させるには回復に当てる時間がなさすぎることは、誰かに説明されなくても、銀治にはわかっていた。
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