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沙耶のために。
その裏側にある自分のために、という気持ちにも銀治は真正面から向き合っていた。
ほとんど毎日を沙耶の近くで過ごした。
少しずつ沙耶は笑顔を見せてくれるようになった。
二人は、その思い出を持ち寄って温め合い慰め合いながら、日々を乗り切って行った。
やがてそれは、互いを必要とする結びつきになり、離れがたい間柄になった。
こんな風に結ばれた二人を理解できないと言う人がいてもいい。
長く続くわけがない、傷の痛みが薄れれば、互いを近くに置くことは不幸しか生まなくなるだろう。
訳知り顔で忠告する人もいた。
そんな言葉を沙耶には決して聞かせないようにと、守った。
そんな人達は、きっととても幸せな人かたいそう不幸せな人だ。
幸せな人は、失ったものを何かで必死に埋めなければ生きていけないことを知らず、不幸せな人は、それができるということを知らない。
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