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「バディが必要でしょ?」
「……トレーニングは、インストつくし」
「ふぅん。浮気するつもり?」
「浮気って……」
「ジンはアタシのもの」
「そんな勝手に」
「嫌?」
「え、あの」
チヒロは私が耳元にやっていた手を取って、両手で包みこんだ。
不思議そうに耳元を覗きこむ。
「耳、どうかした?さっきから、すごく気にしてるみたいだけど?」
「え?あ、別に」
話の方向がずれて、ふっとため息をついた時、ぎゅっとチヒロがその手に力を込めてきた。
「アタシ必死なの。やっと見つけたのに。言ったでしょ?生育環境が限られてるって。やっと同じ種類の、つがいの相手が見つかったのに」
「……つがいって」
ジン……と、チヒロは囁く。
その声に、ふるっと背筋が振動する。
「……チヒロ、そんな大げさな……ほんの2、3か月だよ?」
「先週、一緒に潜ったでしょ?あの時のジンは変だった」
胸の中で心臓がどきっと口のすぐ下まで跳ね上がった。
「アタシ、ジンは全然気づいてなかったと思うけど、この半年、ずっとジンだけ見てたんだよ?」
そっと顔を近づけてくる。鼻が赤い。声が少しだけ震えてる。まるで泣くのを我慢しているみたい。
「チヒロ?」
「アタシ、一緒に行く。上がってくる気のないダイブなんて、だめ」
チヒロは小首をかしげ、私の両目を見つめる。右、左、右……その奥に隠してあるものを見つけ出そうとしている。 その目を潤ませて。白い犬歯を見せて笑う。
「ね?否定しないんだもん。心配なんだ」
揺らぐ。
「一緒に潜ろう?」
揺らいでる。
「ジンのバディに相応しいのはアタシでしょ?ジンだってアタシのことバディだって言ったじゃない?」
深い海の底に
「どこまで行けるかわからないけど、行けるとこまで」
もうその秘密を置いてこなくていいの?
「それ以上行けなくなったら?」
「アタシは強いのよ?心配しないで、海の中でも陸の上でも空の彼方にだって、アタシがジンを連れてく」
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