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銀治はポケットからカップ酒を出しキャップを開けた。
「加奈子、春樹、俺、沙耶と結婚する。沙耶と…幸せになるから」
「春樹?加奈子?そこにいる?ごめんね…こんな…」
ほろほろほろと沙耶は涙を流した。
「春樹と、加奈子が亡くなってから、銀ちゃんが…自分も辛かったはずなのに、ずっと支えてくれて…。それで…」
「加奈子、お前を忘れるわけじゃない」
「私も、春樹のことは絶対忘れないから」
銀治は開けた日本酒を桜の木の根元に静かにまいた。
「沙耶、お前は俺を忘れてもいいからな」
春樹が囁いて、加奈子はふっと溜息をついた。
春樹の言葉の代わりにふわりと僅かな風が銀治と沙耶に届いた。
またほろりと沙耶が涙を流した。
ひらりと雪が舞っている。
加奈子と春樹、銀治と沙耶は空を見上げた。
ひらりひらりと舞い落ちる雪と桜の花びら。
加奈子が手の平をそっと差し出す。
呼応するように
沙耶は、その手を静かに差し出す。
二人の手のひらにはそれぞれに雪と桜の花びらが舞い降りてきた。
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