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「仕方ねーなっ!お前には、俺がついててやっからよ。ずっと、一緒にいてやるよ」
加奈子はくすくすっと笑う。
「仕方ないなぁ・・・一緒にいてあげてもいいよ・・・?」
「まぁ二人が幸せになってくれれば、もういいよな?」
春樹は加奈子を見つめた。
加奈子は諦め顔で肩をすくめると、笑って頷いた。
加奈子と春樹は上を見上げる。
雲の切れ間から眩い光がさしている。
その光の帯が二人を照らし出し「行こう?」と春樹が言った。
「そうだね。うん」
加奈子は答えて、沙耶と銀治に顔を向けた。
「二人は生きて、幸せになって。思い出さなくてもいいから、忘れないでね」
さわさわと緩く風が吹いて桜は囁くような音を立てた。
「俺達は忘れない。また会おう」
銀治は沙耶の肩を抱き、舞い落ちる桜を、雪を、雲間から差す光の帯を見つめた。
「幸せになってもいいのかな。本当に」
「どうせいつか俺達もいくんだから」
沙耶の小さな呟きに銀治は空を見上げたまま笑った。
瞬間、風がどうと吹いて桜はざっと音を立てた。
煽られて枝を離れ巻き上げられた花びらは雪と共に、ひらりひらりと舞い踊り、光の帯の中で束の間、相反するものを結び解いた。
~完~
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