12:Will meet again someday

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どうして ここ まで来ちゃった んだろう。 たぶん…。 ばかだな。 アタシは。 「鍵 もらったから行こ」 荒口の 綺麗な顔 を 見ながら 思った。 夕方 とはいえ まだ 明るいうちから飲んだ せいか  荒口 の せいか…酔った ような 気がした。 「ご案内します」 係のおじさんが アタシの荷物を 持った。 ちょっとイイ気分。 部屋 に 到着。 靴を脱ぐ と 荒口が 当たり前のように アタシの靴 を 揃えて 下駄箱に しまった。 ついでに 館内用のスリッパを 出す。 アタシは 荒口にやらせておいて とっとと部屋に 上がった。 和室の畳の匂いが 新しい。 窓から見えるのは 川。 ライトアップする 灯。 赤く色づいた もみじ。 まだ 賑やかな宵の口。 からら と窓を開けた。 夜の気配 が忍び込む。 するりと体を擦りつけて ふっと離れる猫みたいな 夜気。 ちゃらちゃらと 川の流れる音が 耳に涼しい。 風に揺らぐ葉音。 それに …りぃりぃんりぃりぃんりぃ …ころころころころころ …しっちょ しっちょ しっちょ …ぎっぎっぎっぎっ …りゅりゅりゅ りゅりゅりゅ あれは 虫のこえだ。 どこにいるのかわからないし  どんな虫かも わからない。 それぞれの虫に それぞれの たった一つの 鳴き声が あるのに 混じり合ってる。 川音 葉擦れの音 虫のこえ すべてが 渾然一体となって 静かに 地を這い空に融け 耳を 体を震わせている。 外に向かって張り出した 窓の桟(さん)に腰掛けて 見る。 その音を 聞きながら 思う。 なんで ここに 居るんだろう。 今 アタシ。 今日 夕方近くになって 荒口はいきなりアタシのうちに来た。
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