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「それ、スーパーヒーローみたい」
「弁天橋、渡れなかったんでしょ?」
「昔っからの、ただのジンクスなのに」
「あの子と別れたくなかった」
「……でも、苦しい」
チヒロの指で触れられて、涙を流していることに気がついた。
「アタシの前ではいいんだよ?ジンの気持ち、そのままで。アタシがあの子からソレを隠してあげるから」
揺らいでいる。
「アタシがソレを全部受け止めてあげるから」
私はチヒロの中でたゆたゆと揺らぐ。
立体的で複雑な揺れに揺さぶられて、どうすればいいのかわからずに、ただその揺れに身を任せるしかなくて……。
吐き気がした。口元を押さえる。お腹の底からせり上がってくる。苦い味に顔をしかめる。
「酔った……みたい」
チヒロは立ち上がると私を立たせ、静かに手を引いてトイレに向かった。
背中を擦られて吐き出せるものを全部、吐いた。
チヒロは顔色一つ変えない。
綺麗に後始末をすると私を見上げて笑う。
「すっきりした?」
洗面台にあるマウスウォッシュで口をゆすぐと、本当に気分がすっきりして、体もなぜか心も軽くなったような気がした。
「うん。ごめん」
鏡の中のチヒロに笑いかけてみる。
「大丈夫」チヒロは顔の横でオッケーサインを出して「珍しいね。ジン、強いのに」って言った。
「酔った……チヒロに」
チヒロはくすぐったそうに肩をすくめて笑う。
「無様に吐いた割に、カッコいいこと言うじゃん」
バンバン
背中を叩かれて振り返った。
黒目がちのチヒロの瞳が大きく開いて、きらきらと輝いてる。
行ってみようかな 一緒に
この秘密を持ったままでも
揺らぎ 思い煩いながら
海流に流されることなく
「あとはチヒロんちで」
チヒロより先にトイレを出ると
「え?え?何が?」少し戸惑ったようなチヒロの声が聞こえてきて、くすっと笑えた。
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