1:DEEP SEA

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 「それ、スーパーヒーローみたい」  「弁天橋、渡れなかったんでしょ?」  「昔っからの、ただのジンクスなのに」  「あの子と別れたくなかった」  「……でも、苦しい」  チヒロの指で触れられて、涙を流していることに気がついた。  「アタシの前ではいいんだよ?ジンの気持ち、そのままで。アタシがあの子からソレを隠してあげるから」  揺らいでいる。 「アタシがソレを全部受け止めてあげるから」  私はチヒロの中でたゆたゆと揺らぐ。  立体的で複雑な揺れに揺さぶられて、どうすればいいのかわからずに、ただその揺れに身を任せるしかなくて……。  吐き気がした。口元を押さえる。お腹の底からせり上がってくる。苦い味に顔をしかめる。  「酔った……みたい」  チヒロは立ち上がると私を立たせ、静かに手を引いてトイレに向かった。  背中を擦られて吐き出せるものを全部、吐いた。    チヒロは顔色一つ変えない。     綺麗に後始末をすると私を見上げて笑う。  「すっきりした?」  洗面台にあるマウスウォッシュで口をゆすぐと、本当に気分がすっきりして、体もなぜか心も軽くなったような気がした。  「うん。ごめん」  鏡の中のチヒロに笑いかけてみる。  「大丈夫」チヒロは顔の横でオッケーサインを出して「珍しいね。ジン、強いのに」って言った。  「酔った……チヒロに」  チヒロはくすぐったそうに肩をすくめて笑う。  「無様に吐いた割に、カッコいいこと言うじゃん」  バンバン  背中を叩かれて振り返った。  黒目がちのチヒロの瞳が大きく開いて、きらきらと輝いてる。  行ってみようかな 一緒に  この秘密を持ったままでも    揺らぎ 思い煩いながら  海流に流されることなく   「あとはチヒロんちで」  チヒロより先にトイレを出ると  「え?え?何が?」少し戸惑ったようなチヒロの声が聞こえてきて、くすっと笑えた。
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