13:Fragment of delusion

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ほぉら!見つけたっ! グランドから更衣室に向かう階段の踊り場。重なりそうになる影。 「戸倉!木戸!イチャついてないで早く着替えて教室に行けよ!」 下から声をかけると、戸倉がひょいと顔を出した。 「んだよ。委員長」不機嫌な声。 あーわかるよ?キスの途中、寸止めだもんな。 「ホームルームに遅れるなよ」 爽やかに指差し確認してその場を去る。何やろうがちゃんと間に合えばいいんだ。 駆け足でグランド周りをチェックだ。 学生の自主自治を推進する私立照応大学付属高等学校では、ホームルームに担任は来ない。 我が3―Aの議事進行の全てを司るのは委員長の俺。 ってことは、隙をついてサボろうとするやつもいるわけ。 最終時間割が体育とか特別活動室での授業の時は、不届き者がどこかで息を潜めていないかと必ず見回っている。 体育の場合、そういう輩はだいたい倉庫裏に潜んでたりするわけ。 (ちなみにその他の場合は各「準備室」だけど) ってことで、グランドの隅で35年前からなんかの罰みたいにションボリ立ち続けている、ボロい倉庫の裏を歩いてるんだ。 「……ヤダッて言ったの。でもダメで。怖くなって。あたし」 結月(ユヅキ)の声?思わず足を止めた。 ビュウッ。風がグランドの砂を舞い上げる。 ザワつく胸の底がザラつく。 目の奥で昨日の結月が泣いてる。 結月。気になる。いったい誰と一緒なんだよ? 男?……いや。女だよな?声、ハスキーだけど…。でも… 男の方の体育係が倉庫脇までハードルを運んで、更衣室に引き上げるのを俺は見た。 ともかく、見つからないよう身を隠そう。 倉庫の真横の、相方のように立っているあり得ねーほど大きな金木犀の陰なら最適だ。 こいつは、いつからここに立ってるんだろう。見上げると葉と葉の隙間から覗く太陽が目に染みた。
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