13:Fragment of delusion

3/28
前へ
/324ページ
次へ
「光太郎の部屋を飛び出しちゃったの。今朝から口もきいてないんだ」 そうだ。それで今日の……結月は変にはしゃいで羽宮類(ハノミヤルイ)とばかり絡んでた。 俺とは朝から口も利かないってのに。 だから今日のハードル走は気合入れたんだ。 俺は結月にすっげー見て欲しかった。 でも結月は俺を見ない。 俺が華麗なフォームで飛び颯爽と駆け抜けるのを他の女子は「遠藤くーん!」「こーたろー!」ってキャアキャア声援くれたってーのに! 結月、俺は見ないくせに羽宮類がやるときなんて、胸ンとこで両手をぎゅ、なんてして じっと見つめちゃって。 それって彼氏を見る目だろっ? ゆうなれば俺を見る目だろっ? 俺の活躍をそうやって見ろってーのっ! いくら羽宮類が美形で男並みの身体能力だっつってもな! 女だぞっ? なんでそんな目で見るんだよ? しかも、ほんとなら2コ上だってのっ!先輩だよ?せ、ん、ぱ、いっ!いろんな噂が纏わりついてる先輩だっての! うまいこと他のクラスメートと橋渡ししてる俺の気持ちも考えろってのっ! ユラリと金木犀の香りが鼻先で揺れる。 どうする?嗅ぐ?嗅がない?って試されてるような気分だ。 バカにするな!嗅いでやるって! けど、俺がここにいるってバレないようにしないとな…。 ごく静かに深く息を吸い込む。鼻腔の細胞を押しのけて肺いっぱいの甘酸っぱい香り。胸が、ザワついた。 初めて結月の手を握った時もこんな甘酸っぱい香りがしてたっけ。一年。付き合って一年だぞ?そろそろって思っちゃ悪ぃのか? 「そりゃ遠藤が悪いな」 何だとっ!? 背中をつーっと汗が流れて行った。気づかれない程度に頭を金木犀の陰から出す。 結月とあの羽宮類がハードルを片付けていた。 あいつ、男女問わずに名字で呼ぶくせに、なんで結月のことだけは「瀬良」って呼ばずに「結月」なんだよっ! くそ!なんかやな感じだ! つーかさ、今日の体育係、結月だったっけ? 相川玲子じゃなかったか?…… そういや、相川、羽宮類にコクって振られたらしいって噂も出たな。新学期に、ほんの一瞬。 そうだ。一瞬だ。俺がもみ消した。いい加減なこと言うなって。 だいたい相川は女だぞ?
/324ページ

最初のコメントを投稿しよう!

57人が本棚に入れています
本棚に追加