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…*結*…
半年前のことだった。
ジンに初めて会った瞬間、チヒロの全身に電流が走った。
見つけた!瞬時にチヒロは思った。
『バリバランス』のカウンターで直弘の隣に座っていたジン。
チヒロが顔なじみの直弘の肩を叩こうとした時、セミロングの髪をくるくると捩じり上げ、髪留めで止めたジンと、目が合った。
電流が足の裏から頭のてっぺんに激しく駆け抜けていくまで、チヒロはジンを見つめていた。
金縛りのように身動きが取れなった。
ジンは小首をかしげてチヒロを見ている。不思議そうに。
直弘も見ている。チヒロとジンを交互に。ああ、なんか変だなって思われてるかもしれないとチヒロは思いながら、すぐに反応ができずにいた。
直弘がははっと笑った。瞬間にびいんと頭から電流が宙に放たれて、ふるんとチヒロは震えた。
「なんだよ?どしたチヒロ?」
「……あ、ごめん。……えと、知ってる人に、似てたからびっくりして」嘘だった。
「へーそうなの?」
「う、うん。こんなとこで会うはずない人……なんだけど」ぴらっと本音が出た。
チヒロは悟ってた。たぶんマイノリティの自分が、同じ種類の人に、普通の場所で出会うなんてあり得ないのに。
出会うはずのない人に、出会ったと。
「で、ナオの、彼女?」
「え?ああ。元カノ」
「ジンです」
ジンは言いながら立ち上がって頭を下げた。すらりと背が高い。
「アタシ、チヒロ。千尋の谷の、せんじんって書いてチヒロ」
にっこり笑うと、ジンもにこりと笑ってくれて、心臓が口から飛び出したような気がした。
直弘とジンの間にちゃっかりと座ってもジンは、にこやかな笑顔で受け入れてくれた。
チヒロは、隣で眠るジンの顔を見ながらそんなことを思い出していた。
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