13:Fragment of delusion

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「次、先輩って言ったらその忘れっぽい口にキスするよ?」 「え?」 羽宮類はぱっと手を離す。 なのに、結月と羽宮類の距離感は変わらない。 近いっての!結月、固まってる?早く離れろって!ナニ赤くなってンだよっ!離れろー! 「ボクは怖い思いはさせない。女の子のことは、ボクの方がよく知ってるからね」 「あ…あの?」 「…先週のドラマで杏塚圭吾が言ったセリフ」 にやりと笑う羽宮類がぴんと結月の額を指で弾いた。真っ赤な結月。ムカつきとイラ立ちとイタみで胸が張り裂けそうな、俺っ! ジャリッと俺の足元で小さな音。うわ!ナニ踏んだ?俺! 羽宮類が俺に視線を飛ばした。目元で笑ってやがる。結月は気付いてないらしい。からかうように片方の口元を引き上げる羽宮類。って…知ってた?まさか。初めから?ドキンと胸が鳴る。 羽宮類が結月に何か耳打ちした。結月が俺を見る。目を逸らす。タタッと駆け出した。バニラ。 結月のコロンの香り。白い体操服が遠ざかっていくのを、俺はバカみたいに見ていた。 何事もなかったように残りのハードルを全部、倉庫に片付ける羽宮類。男の俺でもガタついてうまく閉められない扉を、軽々とピシャリと閉めた。 俺のことはまるで無視だ。ポンと肩を叩かれて、初めて羽宮類が俺の隣を通り過ぎたことに気付く。 頭が俺の肩くらいだ。 なんだよ!チビ!てか、女子だし普通の大きさか?いや。女子でも普通よりちょい大きい?いやいや?羽宮類の身長なんかどうだっていいだろ!って?この大人みたいな香りはナニ?金木犀のじゃない。バラ?なんだ?香水か? いや?そうじゃねーよ?そんなこともどうだっていいだよっ!なんで今、俺の肩を叩いたんだよっ? 「着替えてホームルーム始めないとみんな困るよ?委員長」 羽宮類は振り向かずに言った。 「え?あ!やっべぇ。って、…お前もだろ?き、着替え!」 「ボクは大会前だから。ジャージで許可もらってる」 「あ……」 鼻で笑いやがった…。
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