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だ、だから!「抱く」とか言うなってーのっ!女の口からそんな言葉っ!
「ボクを女子だってちゃんと思ってる。なのに、結月とボクのこと、なんで妬いてるんだよ?」
「んなっ!」
知るかっ!ンんなことぉっ!羽宮類がちょっと、いや、こうなったら、だいぶ変わってる。けど生物学的に女だっ!ほら、柔らかい。あ、当たってる。む、胸が。だぁ!考えるなっ!俺っ!馬鹿っ!ほらっ微妙にっ!くすりと腕の中でまた羽宮類が笑う。
ば、ばれてる?俺の微妙な反応…
「独占欲丸出しだ。自分しか見えてないだろ?なのに」
止めろ!言うな!って……気づいた時には、柔らかい唇の感触。『うわ!何してんだよ!俺はっ!』パニック!ありえねー!馬鹿!俺はバカなのかっ?
だけど、触れてしまえば柔らかく温かい。昨日、途中で強制終了したことがフラッシュバックした。羽宮類は、突然のことなのに怖がりもせず、むしろ唇を緩く開いた。
甘く誘うような息までがバラの香り。舌先が潜り込んでくる。濡れた体温が上がる。
完全に思考停止。残ったのは本能。強く抱き締め喰らうように絡める。羽宮類の腕が俺の背中にまわり抱き締められた。俺に応えてくる。結月にはない動きだ。
やばい。これは……本気に……。くすっと湿った吐息に似た笑みが鼻先を撫でた。羽宮類が俺を抱いた腕を解く。静かに唇を離す。
「ボクは嫌いじゃない。今みたいなキスも。けど、結月は怖がりそうだな」
「へ?」
「なぁ遠藤、もっと優しいキスを覚えたほうがいい」
「……何、言ってンだよ……」
やらかしたことで混乱してンのに、お前、何を冷静に分析してンだ?これじゃあ、まるで受験前の模試みたいじゃーねぇか?
『その問題の解き方だけど、こっちの公式を覚えた方がいいよ』的アドバイス?
知らずに脱力したようだ。羽宮類は俺の腕を離れた。少しだけ距離を置き、また冷静な目で俺を見上げて言った。
「もしかして遠藤って……ないだろ?」
「……何が?」 「経験」
固まった俺をそこに残して羽宮類は、またその手をヒラリヒラリと振りながら去って行った。
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