13:Fragment of delusion

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「光太郎?」 クリッと反対側に首を傾ける。結月は白い首筋に手をやって、不思議そうに俺を見た。ふわりとバニラの香りが俺の中の頼りないところをギュッと掴む。 「あ。あ、ごめ。うん。見回り終わればすぐ」 「じゃあ待ってるね」 結月はそう言って、微笑んだ。 …ん?すっげーゆっくりした瞬きだな。って? 目を閉じて…る? バックンと心臓が鳴る。こ、これはいい、のかな? キョロキョロ見回してチェックオッケー! そっと触れるだけのキス。バニラの香り。甘い。ガラッと扉が開いて結月はビクリと体を離した。 「類……」 「あーワリィ。見てないから」 ジャージ姿の羽宮類は、ツカツカと自分の机に向かい、中を覗き込むとピラッと何かを取り出し、そのままツカツカと出て行った。 ヒンヤリした風が吹いたみたいだった。 なんかやな感じだ。わざとじゃないだろーけど。 や?この駆け足の心臓はどうした?俺、しっかりしろ!昨日のアレは、不可抗力! 出会いがしらの事故だ!そうアクシデント! 空気に混じったバラの香り。何故だっ!なぜ嗅ぎ分けちまうんだ!バニラ!結月のバニラ!頼りない俺をまたギュッとしてくれっ! 抱きたい。抱き締めたいっ!結月を抱いてバニラを力一杯吸い込みたいっ! 『衝動的だ』耳の底で、昨日、羽宮類に言われた言葉が響く。洞窟で囁かれた言葉みたいに、それはウワンウワン反響する。 結月に伸びそうな手をぐっと握り締めた。くそう。我慢だ。 って?あれ?なんか視線が迷子みたいだぞ?結月、どした?見られて恥ずかしかった?こんな時は、即! 「ごめん」どうだ!学習機能はバッチリだぜ! 「あ。ううん。光太郎のせいじゃないから」
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