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「光太郎?」
クリッと反対側に首を傾ける。結月は白い首筋に手をやって、不思議そうに俺を見た。ふわりとバニラの香りが俺の中の頼りないところをギュッと掴む。
「あ。あ、ごめ。うん。見回り終わればすぐ」
「じゃあ待ってるね」
結月はそう言って、微笑んだ。
…ん?すっげーゆっくりした瞬きだな。って?
目を閉じて…る?
バックンと心臓が鳴る。こ、これはいい、のかな?
キョロキョロ見回してチェックオッケー!
そっと触れるだけのキス。バニラの香り。甘い。ガラッと扉が開いて結月はビクリと体を離した。
「類……」
「あーワリィ。見てないから」
ジャージ姿の羽宮類は、ツカツカと自分の机に向かい、中を覗き込むとピラッと何かを取り出し、そのままツカツカと出て行った。
ヒンヤリした風が吹いたみたいだった。
なんかやな感じだ。わざとじゃないだろーけど。
や?この駆け足の心臓はどうした?俺、しっかりしろ!昨日のアレは、不可抗力!
出会いがしらの事故だ!そうアクシデント!
空気に混じったバラの香り。何故だっ!なぜ嗅ぎ分けちまうんだ!バニラ!結月のバニラ!頼りない俺をまたギュッとしてくれっ!
抱きたい。抱き締めたいっ!結月を抱いてバニラを力一杯吸い込みたいっ!
『衝動的だ』耳の底で、昨日、羽宮類に言われた言葉が響く。洞窟で囁かれた言葉みたいに、それはウワンウワン反響する。
結月に伸びそうな手をぐっと握り締めた。くそう。我慢だ。
って?あれ?なんか視線が迷子みたいだぞ?結月、どした?見られて恥ずかしかった?こんな時は、即!
「ごめん」どうだ!学習機能はバッチリだぜ!
「あ。ううん。光太郎のせいじゃないから」
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