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苦しかったんだろう。かわいそうに……。
先週、一緒にダイビングに行った時からチヒロはジンの様子を伺い、心を痛めていた。
その上、夕べ、ジンの様子は変だった。
バリバランスのカウンターでジンはいつもよりハイペースで飲んでいた。
「どうしたの?今日は」
「あ?……ううん。なんでも。私さぁ」
「何、何?」
「明日、ユリとサイクリングするんだ」
「サイク……って、なんかなっつかしぃね。友達とって。ん?どこまで行くの?茅ヶ崎の漁港?それとも江ノ島?」
「……ユリが江ノ島に行きたいって。恋人岬の鐘、鳴らしたいって」
「ぷっ。くすくすくす。女二人で?」
「え。あ。うん」
チヒロは、ジンがユリに抱いている気持ちが、どんな種類のものか、ジンよりもしっかりと理解していた。
それで意地悪してみたくなった。
「……弁天橋ってさ、ジンクスあったよね?」
「ああ。カップルで渡ると別れるって言う?」
「そうそう。江ノ島神社の神様が女の、弁天様だからヤキモチ焼くって、その子と渡っていいの?ジン?」
言ってから、じっとジンを見つめた。
ジンは、喉の奥でごくりと何かを飲み込んでカウンターに置かれたままの汗をかいたグラスを見ている。
「ん?どしたの?フリーズ?」
追い打ちをかけてみた。ジンはグラスを持ち上げると、ぐいっと一気に飲み干して「おかわり!」とオーダーする。
それからくるんとチヒロに顔を向けて、笑った。
大きく口を開けて。
びりっと全身に電気が走って、ずきっとチヒロの胸が痛んだ。
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