1:DEEP SEA

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 苦しかったんだろう。かわいそうに……。  先週、一緒にダイビングに行った時からチヒロはジンの様子を伺い、心を痛めていた。  その上、夕べ、ジンの様子は変だった。  バリバランスのカウンターでジンはいつもよりハイペースで飲んでいた。  「どうしたの?今日は」  「あ?……ううん。なんでも。私さぁ」  「何、何?」  「明日、ユリとサイクリングするんだ」  「サイク……って、なんかなっつかしぃね。友達とって。ん?どこまで行くの?茅ヶ崎の漁港?それとも江ノ島?」  「……ユリが江ノ島に行きたいって。恋人岬の鐘、鳴らしたいって」  「ぷっ。くすくすくす。女二人で?」  「え。あ。うん」  チヒロは、ジンがユリに抱いている気持ちが、どんな種類のものか、ジンよりもしっかりと理解していた。  それで意地悪してみたくなった。  「……弁天橋ってさ、ジンクスあったよね?」  「ああ。カップルで渡ると別れるって言う?」  「そうそう。江ノ島神社の神様が女の、弁天様だからヤキモチ焼くって、その子と渡っていいの?ジン?」  言ってから、じっとジンを見つめた。  ジンは、喉の奥でごくりと何かを飲み込んでカウンターに置かれたままの汗をかいたグラスを見ている。  「ん?どしたの?フリーズ?」  追い打ちをかけてみた。ジンはグラスを持ち上げると、ぐいっと一気に飲み干して「おかわり!」とオーダーする。  それからくるんとチヒロに顔を向けて、笑った。  大きく口を開けて。  びりっと全身に電気が走って、ずきっとチヒロの胸が痛んだ。
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