57人が本棚に入れています
本棚に追加
ジリジリ詰め寄る相川玲子を羽宮類は冷たい瞳で見ている。
「脅迫か?」
「わかってよ!あたし類が好きなの!他の男子なんか好きになれないの!」
相川玲子がギュッと抱きついた時も、羽宮類は冷めたままだ。「……相川、悪かった」
「類?」相川玲子の声に期待が混じってすぐ戸惑った顔になった。じっと羽宮類を見つめている。
「たぶん、違うんだ。ボクは相川とはムリなんだ」
「やだ!そんなこと言っちゃ、嫌だ!」
羽宮類の瞳に温もりが宿っていく。なぜか俺の中にもバラの香りが濃縮されていく。羽宮類は悲しそうに笑った。
「本当に申し訳ないと思う。自分がナニモノかボクにはわかっていなかった」
「類?」
「相川のお陰で本当の自分が理解できた」
そっと相川玲子の背中を撫でている羽宮類が、本気で、その辺の男よりもずっと大人の男みたいに、俺には見えた。
「ごめんな。でも、ありがとう。相川」
「……本当にダメなの?」
「うん」
「だったら、最後に…キスして?もう一度だけ、抱いて?できるでしょ?」
羽宮類が相川玲子を抱き締めた。
「相川、そんなことして辛くなるの、お前だよ?」
「でも」
「ボクは気持ちがなくても抱ける」
「やだ。そんなこと言わないでよ」
「相川のこと、すごく好きになる男がこれから絶対に現れる。自分のことをすごく好きだって思ってくれる人間とシたら、ボクとシたことなんて、おままごとみたいだったって思うよ?」
「類……そんなのズルイよ」
「……だな。ごめん」
「キスだけでもいい。類のキス、大好きだった」
小さな、微かでユルユルと細く長いため息が聞こえた。羽宮類の。
羽宮類は、腕の中にいる相川玲子の頬をそっと撫でた。静かに顎に手をかける。額を、頬を唇を愛でるように唇で撫でていく。耳元に、顎先に焦らずゆっくりとキスを落とす。
最初のコメントを投稿しよう!