57人が本棚に入れています
本棚に追加
目を閉じた相川玲子の頬が染まって、息が乱れているのがわかった。
バクバクバクと心臓の音が羽宮類に聞こえるんじゃねーかってほどだ!俺!反応すンなってばっ!うわっやめっ!俺!おい!
羽宮類は半ば閉じた瞳のまま、相川玲子を見ている。反応をちゃんと見てるんだ。チクリと胸が痛んだ。何故だか理由はわからん。
でも……あれじゃ……なんか、自分が気持ち良くなるために、相手を使ってるだけ、な感じがする。
相川玲子の恍惚とした顔を見ていたら、どうゆうわけか羽宮類が、気の毒なよーな気もしてきた。
静かにそっとその場を立ち去る。これ以上見ちゃいけない。やーあの、十分に見たけど。
『ひとの気持がわかってない』
『独占欲丸出しだな。自分の気持ちしか見えてないだろ?』
羽宮類の言葉がこだまみたいに胸ン中で響いてる。あー!!なんだなんだ!
なんで気になるっ羽宮類がっ!?
まとわりついたバラの香りを振り払うように、俺は全力で走った。結月が舞っている教室まで。
結局、ドルフィンショーを見る間、肩に結月の頭の重さと結月の体温に焙られたバニラの香りを感じながら、ちょいちょい羽宮類のことを考えていた。
海を見渡す公園のベンチに並んで座った。シェークのストローを、口をすぼめて吸っている結月は、楽しそうだ。いつも、そう。俺といる時の結月はすっごく楽しそうに見える。
「結月、楽しい?」
「うん!」即答。ほらな。素直に笑ってる結月を見ていると、またふいに羽宮類を思い出した。
潮の匂いを含んだ湿ったぬるい風が吹いている。どこかに死んだ生き物の匂いを僅かに帯びて、風は俺の体を撫でて行く。
「…のさ、結月?」 「なあに?」
「羽宮類って、結月の先輩だった?」
最初のコメントを投稿しよう!