13:Fragment of delusion

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胸が痛い。体が動かない。 結月を見ようとしても、俺の目は瞬間接着剤でくっつけられたみたいに、海だけを見ている。 「……類先輩が助けてくれたの」 「なん…で?」 「たぶん…腹いせってやつかな」 「腹いせって……。そんな」 今度は、見えない敵がすぐそこにいるような気がして、俺の目は無意識にあちこちを見ていた。 誰かが、今この瞬間飛びかかって来ても、俺は負けない!逸る息で体が膨れたり縮んだりしている。 結月が、そっと俺の手に、その手を乗せた。小さく首振ったように思えた。 「それでね?」 落ち着け!俺っ!「あ。……うん」緩い風に乗って、薄く薄く何かが腐敗したような悪臭が鼻先でした。息を止め、覚悟してそっと吸う。 結月のバニラの香りが肺に届いてほっとする。 「類先輩、停学になっちゃったの……ダンケリのキャプテンを病院送りにしちゃって」 「……え……」すっげーなおいっ!羽宮類!お前、どんだけ強ぇーんだよっ!トン、と肩を押されてひっくり返った自分を思い出す。納得かも? 「でも、その理由を類先輩は言わなかった。卒業して高校に上がって……あたしが高校に上がった時にはなぜか休学してたの。その理由も類先輩が言わないから、あたしも聞いてないけど」 「そう……か」やっぱ男前だ。その理由を言ったり言い訳したり…しなかったんだ。 「あっ!でもやられてないからねっ!」 ギュッと結月を抱きしめた。 結月の手からシェークのカップが落ち、外れたプラ蓋がヒュルッっと吹いた風にさらわれた。カラカラと音を立て、違う場所に飛ばされていくカップとプラ蓋を、俺は目の端で見ていた。 「光太郎?」 「ごめん。知らなくて」 「当たり前じゃん。言わなかったんだもん」 結月は俺の腕の中でニカッと笑った顔を上げる。 「でも、だから怖くなった、ンだろ?」 笑顔が曇る。目のふちに涙が溜まる。下を向いた結月のおでこに唇を寄せる。バニラの香りが濃く熱く、揺れる。 「ごめんな。結月。俺、ちゃんと待つ…から」 ふ。くすん。
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