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ここでなんで羽宮類を意識せにゃならんのだっ!すっと結月が俺から離れた。
「ゆ、結月?」
なんだ?まさか羽宮類が出現でもしたのか?すっと空を指差す結月が俺を見る。
「ねぇ光太郎?飛行機雲が」
太陽が斜めから照らす空をゴマ粒みたいな飛行機が白くて、細く長くまっすぐな尾を引いて、輝きながら飛んでいる。空を切り裂くように。
ちゅ。
見上げていた俺の頬に結月が軽いキスをくれて、スイッチを押された俺は、結月をまた腕に中に。
おでこに、ほっぺに…羽宮類がしてたみたいなやり方でキスを落とす。そっと唇へ。結月のバニラに混じるシェークの甘さ。でもすぐにやめた。
二人して、海を見つめる。結月が俺の肩に頭を乗せた。その頭を、髪を撫で、梳いて、耳に掛ける。
「あの夜、類先輩はあたしが眠るまで、ずっとそんな風に、撫でてくれてたんだ」
思いを伝えられない。好きなのに。手を出せない。その先に進めない。
傷つけたくないからか?傷つきたくないからなのか?俺には、わからない。…だけど、わかる。
一緒にいればいるほど、欲しくなるのに。
それでも何も言わずに結月を守り、寄り添っていた羽宮類のことを考えると、胸がちくちくとした。
バラの香り。迷いのない足取り。あの迫力を宿した瞳。
なのに……。背筋が冷えた。
俺の心臓がから足を踏んだようにリズムを崩す。
全身の毛穴が締まって産毛までが立ち上がったような気がした。
なのに、俺は何をしたんだ?その羽宮類に……。
「光太郎?」ぴたりと手を止めた俺を訝しそうに見上げる結月。「どうかした?」
「あっ!や。な、何でもない」
俺の言葉に結月の目が少しだけ曇った、ような気がした。
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