13:Fragment of delusion

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こんな時、もしも羽宮類だったら… 思う間もなく体を結月に向け両腕を回す。俺はしっかりと結月を抱いた。 「何でもない。大丈夫だよ」 結月は何も言わないで、ただコクンと頷いた。 ざざん。と、鳴く海。今さらその声に気付いた。 俺と結月を包み込む囁き声にも似ている波音。胸のずっと奥の方がサワサワと揺れて、くすぐったさを押し付けるように、俺は結月を抱いた腕に、さらに力を込めた。 土曜日の放課後。 俺はまた職務遂行中。あちこちの見回りと施錠確認だぜっ!くっそう! ムカつきも心配ごとも抱えてんのに! サボる自由はない!なんだなんだ!くそぅ! 昨日、2―Bの委員長が見回りでやらかしてくれたお陰で、俺は今朝から生活指導だの教頭だの校長だのに、さんざんっぱら嫌味を言われた。 しでかしたのは、俺じゃねーってのっ! 監督不行き届きって、なんだよそれは! 俺だってしがない一生徒だっつーの! ん…まぁ確かに結果的に、衝撃の目撃でぶっ倒れて医務室の世話になった音楽の先生には同情するけどさっ 音楽準備室、忘れたのかわざとなのか知らねーけど、要するに施錠しなかった2―Bの委員長が悪いんじゃねーの? 入りこんでイチャつく奴らがワリぃじゃねーのっ? ヤリたきゃ部屋でもホテルでも行けってーのっ! 2-B委員長が注意、当事者の2人が停学。そこまでは妥当だろーが……俺が監督不行き届きで叱責を受けるなんて…… つーかっ! “長” なんてついてても、やること雑用だしっ!やれてて当たり前。足りないと怒られるんだ。 しかも!だ! 俺は、やるべきことはやってるってーのにっ! メンバーの面倒も見ろってのか! めんどくせーな。おい。 ああ。親父もこんな思いしてんのかな? 立ち止まる。 「はぁぁ」 『いいか?光太郎。気持ちなんかに振り回されるな。 やりたいかやりたくないか、そんなんちっせーことじゃないんだ。 長(おさ)がそんなことで迷っちまえば、下のモンがみーんな迷子だ。 やるべきことに全力を尽くせ。 やる気なんざぁ、やってるうちに湧いて来る』 …やってるうちに湧いて来る…か。
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