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ブリックパックに貼っ付けられたストローみたいに、校舎の横にくっついた階段塔の中は、空気がスエタカビ臭い匂いに染まってた。
あんま深呼吸とかしたくない感じ。呼吸数が増えないように息を止めがちにして上る。
5階まで上がればさすがに血中酸素が足りない感じで、俺は目の前の錆錆したドアノブを勢いよく回した。グルリ。ギギッと音を立ててドアが向こう側にあっけなく開いた。
開いた。え?開いた?何で?
鍵はどうなってたんだ?
勢いづいて踏み込んだ足とはウラハラに頭の中では、やけにユルユルと考えがまとまらない。
深呼吸。バラの香り。ザワつく胸と鳥肌。
屋上の非常用給水タンクに背中を預けたジャージ姿の羽宮類が、俺をじっと見つめていた。
羽宮類は俺を見据えたままで手にした缶コーラをぐいと煽る。白い喉が見えた。
「羽宮…類…」
「キスした相手をフルネームで呼び捨てか?遠藤」
クスクスと淡い桜色に息づく笑みを零して羽宮類は首を傾げる。バラの香りが俺の中に侵入する。
「あ。あの…え?なんで?」
「開いてた」
「ど、どこが?」
「階段塔。下のドア」
「え?だって閉まってた」
「ボクが閉めたんだ。開けて入って閉めた」
当たり前のことを当たり前に言う、その口調に微かにバカにするような響きが聞こえて、俺の心臓はドックンと吠えた。
「だ!ここは進入禁止だ!」
「だったらきちんと施錠しておけよ?」
「ぐ…」
缶を置くと羽宮類は手の平を上に向け人差し指で俺を呼びつけた。って!おい!俺!何を素直に呼びつけられてんだっ!ば!バカなのか!
バカなのかっ!?遠藤光太郎!グルグル巡る考えがせめて漏れ出さないように、俺は顔に力を入れる。羽宮類は、立てた親指で自分の隣を指した。座れってことかよ?
じっと見つめられたまま、座る俺に羽宮類が缶コーラを差し出す。一口。コーラなのにコーラと違う匂いと刺激が粘膜を侵食する。ジワリジワリと熱を上げて滑り落ちる。
「酒……?」
「同罪だな」クックックと羽宮類が笑う。
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