1:DEEP SEA

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 「女友達には関係ないジンクスじゃん」  ぽんぽんくしゃっとチヒロの頭をジンは撫でて、チヒロはそれで少し泣きたくなった。  ほら、やっぱり。内心でチヒロは呟いた。  本当は夕べに始まったことじゃない。急に決まったあの子の結婚式。いわゆるおめでた婚。  それからジンはなんだか不安定で、変だった。  自分ではうまく隠していたつもり?取り繕うとするから余計にアタシにはわかったんだよ?  ジン……。  チヒロは、そっとジンの髪を指で梳いた。  静かに寝息を立てているジンを見ていると心の底からじわりと幸せを感じた。  大好きなのに手が届かない。その辛さはわかってる。  かわいそうだったけど、本人が認めていない気持ちと傷を、慰めるわけにはいかないと、チヒロは思った。  だから、せめて、なるべくジンと一緒にいようとした。  潜りに行こうって誘ったり、飲みに行こうって誘ったり。  ジンのことが好きだよって、チヒロは口癖のように言っていた。  そのたびジンは笑ってはぐらかして、チヒロの胸は痛んだ。  ねぇジンは、本当はアタシと一緒に居るべきだと、思うんだ。  だって、同じ種類のイキモノなんだもん。  ジンは、今までずっと気付かないフリしてきたみたいだけど、本当は自分のこと、理解してたんでしょ?  それでも認めたくなかった。  でも、アタシが教えてあげる。もう大丈夫だよって。  アタシは、ずっとそう思ってジンを見てきたんだよ?    隣で眠るジンの顔を見つめて、なんだかまだ夢みたいな気がして、ほっぺを撫でてみた。  うーんと小さく唸って、ジンはチヒロの手を握る。だけど目を覚まさない。  わかってるんだよ?アタシ  これは、まだ始まりじゃないって。  ジンはまだまだ戸惑うだろうって……だけど、心配しないで。  アタシがいるから。ずっと言ってたでしょ?アタシはジンが好きだって。友達の“好き”じゃないって。  アタシにはわかってたんだよ?ジンがこっち側の人間だって。  ゆるく微笑んでチヒロは窓のほうを見やった。朝日がカーテンの向こうを明るくしている。  目を開けて時間がたつほど、きっとジンは色々考えちゃうだろう。
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