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「命って言ってねーよな?」
「え?だから?」
羽宮類は俺の手から自由になるとジャッとジャージのジッパーを降ろした。何もつけていない。そのまま。素肌。綺麗な胸が。っ!ちょっとぉっ!目が…目のやり場がっ!なのになぜっ!ガン見っ!俺っ!俺の目ん玉っ!
「捨てるのは体。今まで窮屈だったから」
あ…え…意味がわからん。何を言ってるんだ?
「結月のことは建前だ」
「……何を、言ってるんだ?」
はだけた俺の胸元に、裸の胸を押し付けるようにして、羽宮類は俺を抱いた。熱い肌。柔らかな…。奪うような一方的なキスで絡めて、冷たく離れた。
「やめやめ」
立ち上がった羽宮類は、俺の頭をくしゃりと撫でた。
「結月、頼むな。妹みたいなもんだから」
「……なぁお前の言ってることもやることも…何で……俺にはわからないんだろう」
「バカだから、だろ?」
頭の上の羽宮類の手を振り払おうとした。
羽宮類は俺の手首をそっと握る。
指を絡めて繋がれた俺と羽宮類の手。小さな手だ。
結月よりは大きいけど、それはやっぱり小さくて、女の手だった。何だか俺は羽宮類が泣いてるような気がした。
目を上げる。優しく悲しそうに微笑む羽宮類の目は、それでもまっすぐ俺に向けられている。揺るぎない輝きがあった。
俺の目を見つめながら、ゆっくりゆっくりと顔を近づけてくる。拒む仕草を見たら、すぐにでもやめられるような、そんな感じだ。
バサバサとまた嫌な羽音を響かせてカラスが飛び去った。温かい唇が俺の額に触れた。
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