13:Fragment of delusion

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撫でている。ポツリ。落ちて来た涙の意味もわからない。ただ動けなかった。 離れた唇。初めて見る羽宮類の瞳に揺らぐ迷いの影。流れ落ちている涙。 羽宮類の裸の胸に導かれる俺の手。柔らかく潰されていく羽宮類の胸。きれいな胸だった。 「お前の使う“好き”は、単純で羨ましいよ」 「……へ?」 羽宮類はヒラリと手を振り俺を残して去って行った。 眠る結月の肩にそっとキスを落とす。 「んん……」 小さな声で結月は応える。けどまたすぐに眠りに落ちて行った。満たされた心と解放された体で俺は結月を抱き締めた。 結月の胸に手を置く。柔らかくて温かいそれを包み込んで、少し力を込める。 それからそっと押し潰す。くわえられた力をそのまま受け入れて、形を変える柔らかな肉。 ……羽宮類……。 唐突に学校に来なくなった羽宮類のことを、俺は今でも時々思い出す。 結月に聞くとよくわからないと言って、なんとなく口ごもる。 あの日、何が言いたかったんだろう。羽宮類は、何がしたかったんだろう。 キスをする。結月の胸に触る。カラスを見る。街中でバラの香りに出会う。 そのたびに、迷う。 好きって単純なことじゃなかったのか?お前は何を求めていたんだ? あの羽宮類の瞳の影の意味。 言葉。行動。そんな断片はどんな絵も形も創り上げない。 結月を起こさないようにそっとベッドを出る。 結月は幸せそうな寝顔で体をひねり、まだまだ眠るつもりらしい。バニラの甘い香りが揺れた。 冷蔵庫を開け、ウィスキーをコーラで割る。テラスに出ると、はだけた胸元にぬるい風が指先を忍ばせてくる。 飲みながら、また思い返す。羽宮類を。 いつまでこんな風に鮮明に思い出すだろうと、自分でも訝しみながら。 ~完~
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