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自分のしたことを後悔するかもしれない。
冷静な頭で考えて、アタシを受け入れたことにショックと戸惑いを感じるかもしれない。
だから、本当はずっとここにいて、ジンを見ていたい。
チヒロはジンと過ごし思いを遂げたことに、とろけるような幸せな気持ちと、それとは裏腹に焦るような不安を感じていた。
先週の、海の底にいた時のジンの様子と夕べのジンを見ていて、チヒロの中に凝り固まった嫌な予感が、互いを許しあったはずなのに、解けなかった。
せっかく一番親密なところに近づけたのに……ジンの意図は別のところにあるんじゃないか……チヒロはそう思っていた。
ジンは、もう全部全部、終わりにしようとしてるんじゃないかって……。
なんならこれのすべてをアタシのせいにしたっていい。
ジンはだた酔ってただけで、アタシの誘惑に乗せられただけだって……。
でも、ジンはアタシを責めたりしだろう。
きっとジンは、考え込んだり悩んだりしてしまう、そんな自分を見られるのは、好まないだろう。
それに、今日はあの子と会う約束をしている……。
だから……今日は大丈夫だよね?
ね、ジン? アタシ、ジンよりも先に行ってるね。
起こさないように、そっとジンの手から自分の手を取り戻す。
もしかしたら目を覚ますかもしれない。
期待するような、しないような、微妙な気持ちのまま、ジンの寝顔をチヒロは見つめる。息をつめて。
まだ深い眠りの底にいるジンが愛しい。胸がゆらゆら揺らいでいる。
すべての行動に音を立てないよう細心の注意を払いながら、チヒロはシャワーを浴び、家を出る支度を済ませた。
着替え終わって、ベッドのジンを見下ろす。
わかってる。まだ始まってない。
絶対に終わらせたりしない。
だって、ジンのバディはアタシだよ?
夢の中でこの声がジンに届きますように。
チヒロは心の中でジンに囁いて、そっとドアを閉め、音をたてないように静かに鍵をかけた。
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