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柔らかな若葉の季節でも
日差しに焼かれても強い雨に洗われても
冷たい風に葉を散らせても
誰からも顧みられることはなかっただろう。
少なくとも私はそうだった。
この緑の匂いを嗅ぐまでは
この街路樹をこうやって見上げたことなどなかった。
雲がゆるゆると流れていく。
やがて
これ以上削りとれないほど細くなった白い月が雲の向こうに現れた。
それは
その闇を少しも明るくはしないけれど凛と静かに確かにそこにある。
どこかでミオンと小さな声が聞こえた。
亜紀は軽くその辺りを見回して
苦笑いを浮かべる。
見つけてどうするの?
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